フランジ切削加工における表裏穴の位置精度
フランジ部品は、配管や回転機械の接合部に使用され、流体の密封や部品の位置決めといった重要な役割を担います。その性能を大きく左右する要素のひとつが「穴位置精度」です。特に、表面から裏面へと貫通するボルト穴や通し穴では、わずかなズレが組立性やシール性に直結し、製品全体の信頼性を左右します。
表裏穴の位置精度が問題となる理由
フランジにおける穴位置の誤差は、実際の組立工程で深刻な問題を引き起こします。代表的な例としては、
・ボルトが正しく挿入できない
・密封性が損なわれ、流体が漏洩する
・無理な締付けによってガスケットが損傷する
といった不具合が挙げられます。さらに、偏心した穴は締付け時に局所的な応力を発生させ、長期的には疲労破壊や寿命低下の原因となります。そのため、表裏穴の位置精度はフランジ加工において避けて通れない品質課題といえます。
穴位置精度に影響する要因と対策
穴位置の精度を確保するためには、加工条件や設備の特性を十分に理解したうえで対策を講じる必要があります。主な要因とその対策は以下の通りです。
段取り替えによる芯ズレ
フランジの表・裏を別工程で加工する際、再チャッキング時の基準合わせが不十分だとズレが発生します。そこで、一般的なNC旋盤で加工する場合、表面加工後に基準穴へ位置決めピンを挿入して裏面加工の基準とする方法が用いられます。さらに、チャッキング後には機上計測による位置確認とNC補正を行うことで、精度を維持できます。
また、サブスピンドル付きの複合旋盤を用いれば、ワンチャッキングで表裏加工を完結でき、芯ズレのリスクを大幅に低減できます。
治具精度と繰返し位置決め精度
旋盤の爪精度が不十分だと、真円度や直角度にばらつきが生じます。高精度が求められる場合は、生爪成形によって専用爪を製作し、位置決め精度を高めることが有効です。
熱膨張と切削応力
大型フランジや削り量の多い加工では、切削熱や応力による変形で寸法誤差が生じやすくなります。これを抑えるには、切削条件の最適化やクーラント温度の管理など、熱影響を最小化する工夫が不可欠です。
工具摩耗の影響
特に内径の深穴加工では、工具摩耗やビビリが穴位置精度に影響を及ぼします。超硬工具の採用や加工条件の見直し、工具寿命の適切な管理が重要です。
このため、クランプトルクの数値管理や治具設計の工夫が重要です。さらに、真空チャックや特殊な支持治具を使ってワーク全体を安定して保持することも、歪み低減に効果的な手段のひとつです。
その他の留意点
さらに注意すべき点として、公差設定の妥当性が挙げられます。必要以上に厳しい公差は加工時間を増やし、結果としてコストを押し上げる要因となります。機能上問題のない範囲で公差を設定することで、精度とコストのバランスを取ることが可能になります。
また、製品検証の段階では三次元測定機を活用し、出荷前に寸法精度を保証する体制を整えることで、不良品の流出を未然に防ぐことができます。
フランジの切削加工事例
制御機器用カム
2軸旋盤でのブランク加工後、複合旋盤でタップ・穴・長溝を同時加工し、ワンチャッキングで位相精度を確保しています。従来であれば複数工程と治具が必要でしたが、複合旋盤の活用により、コスト削減とリードタイム短縮を実現しています。
まとめ
フランジ切削加工における表裏穴の位置精度は、組立性や密封性、さらには製品の信頼性を大きく左右する重要な要素です。わずかな誤差でもボルトの挿入不良や漏れ、ガスケットの損傷などを引き起こし、長期的な耐久性にも影響を及ぼします。
位置精度を確保するには、段取り替え時の基準合わせや複合旋盤によるワンチャッキング加工、治具精度の確保、熱変形や工具摩耗への対策など、多角的なアプローチが欠かせません。また、公差設定や検査体制を最適化することで、精度とコストの両立も可能となります。
当社では豊富な経験と設備を活かし、高精度なフランジ加工を安定してご提供しています。高精度のフランジ加工でお困りごとがございましたら、是非当社にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!