マシニング加工でコストダウンするために、設計者の方に知っておいていただきたいこと
マシニング加工は、CNC制御によって金属や樹脂を高精度に切削する、製造業に不可欠な加工方法です。しかし、優れた加工技術があっても、設計段階で加工の特性を十分に理解していなければ、図面の実現性が低くなり、製造コストやリードタイムに大きな影響を及ぼします。
加工可能な形状や材質、精度の限界を理解した設計は、無駄なコストや工程を削減し、現場との連携も格段にスムーズになります。
設計時に注意すべき加工制約
マシニング加工には、機械や工具の構造に起因するいくつかの制約が存在します。設計段階でこれらを把握しておけば、不要なコスト増加や加工条件の再調整を避けられ、結果としてリードタイムの短縮につながります。
工具径と加工深さの関係
深すぎる穴を設計すると、専用のロングドリルやロングエンドミルが必要になり、加工コストは大きく跳ね上がります。特にSUS304やSUS316のような難削材では、超硬工具やオイルホールドリルの使用が標準となるため、さらに工具費用は高く、加工時間も増えてしまいます。設計時に加工深さをできる限り短く抑えることで、これらの負担を最小限にすることが可能になります。
必要精度の見極め
高精度を求めるほど加工時間は増加し、それに伴ってコストは確実に上昇します。重要なのは、どの箇所にどこまでの精度が本当に必要なのかを明確にすることです。精度指定を合理化するだけで、加工工程が減り、品質を維持しながらコストを大幅に抑えられるケースは少なくありません。
抜き加工の隅Rの設定
直角に近い鋭い隅を求める設計は、エンドミルでの切削が困難になり、結果としてワイヤ放電加工に頼らざるを得なくなります。ワイヤ放電加工は高精度な一方で加工時間が長く、費用も高額です。適切なRを設定するだけで切削加工が可能になり、コストアップを防ぐことができます。
ワークのクランプ性
曲面や凹凸の多い形状では固定が難しく、専用治具の製作や5軸機での加工が必要になる場合があります。設計段階でフラット面を広めに設けるだけで、標準的な段取りが可能となり、大幅なコスト削減につながります。
当社のVE提案で実現したQCD向上の事例
当社では、設計者の方と綿密に協議しながらVE(Value Engineering)提案を行い、QCD向上に貢献してきました。ここでは、実際にコストダウンと品質向上を両立させた3つの事例をご紹介します。
ポケット隅Rの変更で工具寿命が2倍に
従来、ポケット隅Rの設計でR1が指定されていたため、小径工具による加工が必要となり、工具負荷が大きく寿命が短いという問題がありました。さらにビビりが発生しやすく、面粗さの確保も難しい状況でした。そこで隅RをR2へ変更する提案を行い、工具剛性が向上した結果、ビビりが解消され、工具寿命は約2倍に延びました。加工時間も短縮され、コストダウンと品質向上の両方を実現できました。
深溝形状の見直しで標準工具が使用可能に
元の設計では深溝形状でロングエンドミルが必須であり、加工精度や面粗度の確保が課題となっていました。溝幅と深さを標準工具で対応できる寸法に調整するVE提案を行ったことで、特殊工具の使用が不要となり、工具費用と加工時間の削減に成功。結果として、求める面粗度も容易に達成できるようになりました。
切り欠き加工幅見直しで工程削減
幅1mm・厚み20mmという切り欠き形状は、マシニング加工後にワイヤ放電加工が必要で、工程が増えてリードタイムが長期化していました。溝幅を2mmに拡大する設計変更を提案し、マシニング加工のみで完結できる形状に見直すことで、工程削減とコストダウンを同時に達成しました。
まとめ
設計者が加工技術を理解することで得られるメリットは非常に大きく、製品開発のあらゆる場面で効果を発揮します。加工制約を踏まえた設計は、試作段階でのトラブルを未然に防ぎ、量産時の安定性も高めます。加工しやすさを意識した設計は、製造コストの抑制だけでなく加工時間の短縮にも寄与し、結果として全体の生産性向上につながります。
さらに、加工メーカーとのコミュニケーションがスムーズになり、設計意図が正確かつ迅速に製造へ反映されるようになります。これは、品質の高い製品を安定して供給するための重要な要素です。
当社では、設計段階からの技術協議を積極的に行い、VE提案を通じてお客様のQCD向上に貢献しています。マシニング加工に関するご相談があれば、ぜひ設計の段階からお声がけください。最適な加工方法と設計の両面から、貴社の製品価値向上をサポートいたします。
最後までお読みいただきありがとうございました!
